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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)3717号 判決

原告 株式会社木星商店

原告 協和醗酵工業株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告は原告に対し別紙目録(一)、(二)記載の土地、建物に付共同担保として昭和二十九年三月二十二日大阪法務局受付第五六七四号を以て原因昭和二十八年十二月十八日附根抵当権設定契約、債権極度額金三百万円、契約期間昭和三十一年十二月二十日迄根抵当権者被告会社とせる根抵当権設定登記の抹消登記手続をなせとの判決を求めその請求の原因として

原告会社は昭和三十二年七月十五日訴外寝屋川化学製品合資会社から代物弁済として別紙目録(一)(二)記載の土地及建物の所有権を取得し其の所有権移転登記手続を完了した。

訴外会社は本件土地建物を共同担保として昭和二十九年三月二十二日大阪法務局受附第五六七四号を以て原因昭和二十八年十二月十八日付根抵当権設定契約債権極度額金三百万円契約期間昭和三十一年十二月二十日迄、根抵当権者を被告会社として根抵当権設定契約をなしてあつたがその後訴外会社と被告会社との間には取引なく原告が所有権を取得した昭和三十二年七月十五日現在に於て訴外会社は被告会社に対し何等債務を負担していないから原告は被告に対し根抵権設定登記の抹消を求めると述べ、

被告の抗弁事実を否認し被告がその主張の如き約束手形七通を所持し更にミヤコ化学株式会社から訴外寝屋川化学に対する債権を譲受けたとしても右は本件根抵当権によつて担保せられざる債権である。凡そ根抵当権が設定せらるる場合当事者間には将来一定の基本的取引関係を予定しその取引関係から生ずる債権を担保することを目的とするもので従つて基本的取引関係以外の事由により生じた債権はその対象とならないというべきである。原被告間の根抵当権設定契約(乙第一号証)では「訴外寝屋川は被告に対する現在の債務及将来の債務(金銭貸借商取引手形債務其他一切の債務を包含する)を担保する為左記物件上に根抵当権を設定した」と規定しあり訴外会社の販売商品の大半は被告から買受けていた関係から金銭的援助を受けることを予想し更に買掛代金を手形で決済することを考えて右用語に従つたもので右の取引関係を予定したものであるが本件の様に被告が第三者たるミヤコ化学株式会社より裏書譲渡を受けた手形債権及び被告がミヤコ化学から債権譲渡によつて取得した債権等は当事者の予定せざる債権であつて根抵当権によつて担保せらるるものではないと述べた。

立証として原告は甲第一号証の一、二、甲第二号証、甲第三号証の一乃至三、甲第四号証を提出し証人大竹清の証言を援用し乙第一号証乙第二号証の一乃至七、乙第五号証の成立を認め乙第四号証は官公署作成部分の成立を認めその余の部分は乙第三号証と共に不知を以て答えた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張事実中本件土地建物に付原告名義に所有権移転登記がなされたこと、原告主張の如き根抵当権設定登記の存すること(但根抵当権設定契約の締結されたのは昭和二十八年二月十八日である)は認めるが原告が代物弁済で本件不動産を取得したとの点は不知その余の事実は否認する。

本件根抵当権設定の契約をした当時被告は訴外寝屋川化学製品合資会社と取引をしていたが被告会社の子会社であるミヤコ化学株式会社が被告会社の製品の販売に当ることとなつて被告会社は訴外会社と直接取引を停止した。然しミヤコ化学株式会社は被告会社の子会社であるからその取得した手形は全部被告会社に譲渡され訴外会社発行の約束手形も被告会社が譲受けることは当事者間に於ては明かであつた。

而して被告会社は訴外会社振出の約束手形七通合計金二百五十五万六千百二十六円を所持し訴外会社に手形金債権を有している。更に被告はミヤコ化学株式会社が訴外会社に対し有する売掛代金債権七十四万七千四百三十円を昭和三十一年八月二十八日譲受けその旨訴外会社に通知済である。

本件根抵当権の担保する債権は根抵当権設定契約公正証書第一条に於て訴外会社の被告に対する現在の債務、将来の債務(金銭貸借商取引手形其の他一切の債務を包含する)となつていて前記債権も当然含まれるものであるから訴外会社に対し被告が何等債権を有しないことを前提とする原告の請求は失当である。と述べ立証として乙第一号証乙第二号証の一乃至七、乙第三乃至五号証を提出し証人松村忠の証言を援用し甲号各証の成立を認めた。

理由

別紙目録記載の土地建物に付被告会社が訴外寝屋川化学製品合資会社に対する債権担保の為極度額金三百万円、契約期間昭和三十一年十二月二十日迄とする根抵当権設定登記の存することは当事者間に争のないところ原告はその後訴外会社と被告会社間に取引なく原告会社が代物弁済により本件不動産の所有権を取得した昭和三十二年七月十五日現在に於て訴外会社は被告会社に対し何等債務を負担し居らざる旨主張し被告は之を否認し本件根抵当権設定契約締結当時被告会社は訴外会社と取引をしていたがその後被告会社の子会社たるミヤコ化学株式会社が被告会社の製品の販売をすることになつたので被告会社と訴外会社は直接取引を停止したけれども訴外会社がミヤコ化学宛振出した約束手形は全部被告会社に於て裏書譲渡を受け其の合計は金二百五十五万六千百二十六円となり現にその手形を所持し居りミヤコ化学が訴外会社に売掛けた債権七十四万七千四百三十円は昭和三十一年八月二十八日譲渡を受け訴外会社に通知済であり根抵当権設定契約では訴外会社の被告会社に対する現在及将来の一切の債務を担保する旨定めあるから右債権も当然之に含まれるから原告の請求は当らないと抗争するので按ずるに被告の現に有する訴外寝屋川化学製品合資会社に対する債権は成立に争のない乙第二号証の五の額面金七万二千円の約束手形を除き爾余被告主張の債権はいづれも訴外ミヤコ化学株式会社の訴外会社に対する売掛代金債権を譲渡され或は約束手形を裏書譲渡せられたものであることは当事者間に争なく仮にミヤコ化学が被告の謂う通り被告会社の子会社的性格を持つものであつても本来は第三者であるから仮令根抵当権設定契約に於て現在及将来の一切の債務という用語が使用せられていたとしても元来根抵当権により担保せられる範囲は一般的には当事者間に将来発生することを予測せられる基本の取引関係から生ずる債権に限定せられるべきであつて右基本的取引と拘りなき債務者の全く予想もしていない他人の債権を譲受けて被担保債権とする如きは許されないと解するのが相当であつて従てその範囲は基本的取引と客観的に因果関係あるものに限定せられるというべきであるが証人松村忠、同大竹清の証言によると被告会社は予て訴外寝屋川化学製品合資会社に対し被告会社の製品を販売していたが昭和二十八年末頃からその製品はすべてその経営陣や従業員を共通にする訴外ミヤコ化学株式会社を通じて訴外会社に販売する契約を結び訴外会社はミヤコ化学を通じて被告会社の製品を買受け被告会社とミヤコ化学間の決済はミヤコ化学の経営を援助する目的で訴外会社のミヤコ化学宛振出した手形を裏書する所謂廻り手形の方式で行われ訴外会社も之を了承していたことが認められる。従て当事者間にかゝる協定があつた以上右訴外会社の振出した約束手形の裏書を受け或はその売掛代金債権の譲渡を受けた以上右債権が被告会社の債権として本件根抵当権により担保されることは当然であつて若し之に包含しないものとするなら被告会社は当時当然にその根抵当権を抹消して新にミヤコ化学株式会社と訴外会社との間に根抵当権を設定することは容易であつたと認められるのに敢てしない事実からも容易に之を覗うことが出来る。

況んや前示乙第二号証の五によれば被告会社の直接債権である金七万二千円の手形債権も現存するに於おや(この債権について証人大竹清は弁済々であると証言するが同号証が現に被告の手中に存する事実から見て同証人の証言部分は信用出来ない)而して成立に争のない乙第二号証の一乃至七と全部真正に成立したと認める乙第四、五号証によれば被告会社が訴外会社に対し現に有する手形債権及売掛代金債権は本件根抵当権設定契約の有効期間内に被告会社の債権となつたことが認められるから原告の請求は失当として棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小野沢竜雄)

目録

一、大阪市城東区今福南四丁目十九番地の二

宅地 三百八十七坪

二、大阪市城東区今福南四丁目十九番地上

家屋番号同町第一四八九番

木造スレート葺平家建工場

建坪 二十五坪五合

右附属

一、木造スレート葺平家建倉庫

建坪 四坪

一、木造瓦葺平家建便所

建坪 五合

一、木造亜鉛銅板葺平家建物置

建坪 三十坪

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